石川真紀より、みなさまへ。
ベースボール・ジャーナリスト:石田 雄太さんとのインタビュー記事を掲載します。
(計4回のうち、3回目)
--- 取材者・記録者としての矜持、品性について。この10年、20年ほど、政治家やスポーツイベント・団体のトップなどが質問に誠実に答えようとしない、結果、何度も同じような質問を畳み掛けざるをえないような姿勢を見せられる年月が続いたことで、取材する側の質問力を活かせない土壌ができてしまった印象があります。
石田 雄太さん(以後:石田): 色んな記者会見で、記者と訊かれる人が居て、それを多くの人に見せている。質問する人も答える人も、会見って、こういうもんだっていう先入観の中で、とにかく訊くことに意味がある、訊かれたことに反応することでOKみたいな予定調和があって、だからそうなってきちゃったんだと思います。例えば、政治家に質問する記者の人も、お互いの仕事に対して長くリスペクトを持って時間を使ってきた間柄の人って居るでしょ。こっちはこれを訊きたい、あっちはそれに応えなきゃいけいけない、俺が今この質問、ぶつける意味わかってるよな、っていう関係がないと。普通の会見って、そこまでの関係ができていない中で、お互いが芯を外した状態の質問と答えになっちゃうから、使命感の下にリスペクトを持って向き合うというふうには、なかなかならない。
僕はもともとスポーツ新聞の記者になりたいと思っていて。僕はNHKに居た時も番組に就いていたから、球団担当や番記者の経験がない。番記者への憧れもすごく強かったし、番記者の人たちに対して、畏敬の念を常に持っています。新聞記者の人たちって、仕事上、時に相手の意向とかそういうものを二の次にして突っ走らなきゃいけない場合があると思うし、それが彼らの仕事。僕は、やっぱり彼らにもプロフェッショナルを感じるわけです。僕は、スポーツ新聞の記者になって抜かれちゃいけないみたいな世界に放り込まれたらどうなっていたかわからないけど、今思えば、すげえ向いてないなと思います(笑)。
昔は同じ世界の人たちの中で、怖いなって思う記者が何人か居たの。わっ!どうやって動いているんだろう、どこからこんな情報掴んでくるんだろうって。最近はそういうことを思わせてくれる人って、ほとんど居ない。記者のクオリティーとか種類が変わってきたのかなと思います。
--- コロナ禍を経て、オンラインの活用機会が増えました。ある程度、リアルな関係性を築いた相手であってもオンラインでの意思疎通には物足りなさがついてまわりますが、初対面でオンラインとなると、本当に難しいです。
石田: 僕、本当に初めての時のオンラインって、いかに印象をつけるかみたいなことは大事だけど、最初の質問はフワッと入らないように、とか、そういう意識は持っていて。いきなり難しいことを訊いてもダメだし、あなたのことを一生懸命観ていますよ、というのもダメだし。でも観ているからこそ、どうしても訊きたいことがあって、しかも相手が答えを持っていそうなことを最初にぶつけると、向こうは答えを持っているから話しもできるし、そんなこと観てるんだ!って思わせることもできるかもしれないし。そして、核心は後に取っておく。最初の質問は大事だよね。対面の時はフワッとした質問がよかったりするんだけど、最初の質問にそぐう質問が、オンラインにはあるなって思います。
--- オンラインでの流れの作り方は今後の課題ですが、リアルの場合でも、例えば記者会見・囲み取材で記者が複数居合わせた時など、他の記者の出方や空気を待つ風潮の改善が課題です。
石田: 相手がポロっと言ったことが特別なことであるか、今まで言ったことがないこと、初めて僕に言ったことであるかどうか、わからないとダメ。相手は、食いついてほしいことをスルーされると、いきなりテンションが下がるんですよ。過去に言ったことがない、というのは、今までの発言を憶えていないといけないし。初めての選手に対しても、どんなことを言っているか、それに対して掘った質問は誰もしていないとか、もちろん調べて臨む。初めての一言が出た時に、えっ?ていう声を発することができれば、相手が続けて何かしゃべらなきゃいけないような状況に持って行ける。何が新しいことか、何に驚くべきか、瞬時に判断できないと、送り手側として衝撃的な発信なんかできっこない。一方で、インタビューは時間がかぎられているし、核心の質問は後に取ってあるから、時間配分や組み立てを考えながら、相手の撒いた餌に食いつく。その難しさに対応することがインタビューの醍醐味であり、絶対的に必要なことだと思います。
--- 雄太さんと、例えば大谷翔平さんの場合、大谷さんがかつて「音合わせ(大きくなった身体と技術を合わせる作業の意)」という表現を編み出された時に、一瞬、えっ?となったのかと思いますし、あとは、大谷選手のお母さま・加代子さんが、少年時代の大谷選手にふと仰った「ピッチャーとバッターってどっちもできないのかね(※)」という言葉も、後々、伏線となっていくわけですものね。
石田: そうね(笑)。やっぱり本人の言葉は大事だけど、本人の言葉だけでは全部表現しきれない。彼の(投打)2つやるっていうことに対してのスタンスに関しては、一時期は、そんなこと言ったら失礼だって思っている彼が居たと、周りから聞こえてくる場合も。でも僕の場合は、どちらかと言うと、周りからの表現よりも本人から聞き出そうっていうことの方に力を尽くすタイプだと思います。あの時(2013年)はたまたま、(大谷選手の)お父さんとお母さんから取材をするっていう場があって、お父さんの到着が仕事の都合で遅れたんです。その待ち時間に、お母さんと話すことができた。最初からお父さん、お母さん2人で居たら、あの話(※)は出ていないですからね。
(記事は合計4回掲載予定。続きは5月29日に掲載予定です。)

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