石川真紀より、みなさまへ。
ご縁をいただいているドキュメンタリー監督:金 聖雄さんに、
最新作「アリランラプソディ~海を越えたハルモニたち~」のお話を伺いました。
本作の舞台は、神奈川県川崎市の桜本。
金監督は、そこに生きるハルモニ(韓国語で、おばあさんの意)たちに、
四半世紀にわたり寄り添い続けておられます。
金監督がフィルムに込める思いなどについて、計3回掲載する予定です。
--- 今回のフィルムに登場するハルモニたちに「夢」について訊ねることをインタビューの糸口とされた背景、金監督の思いをお聞かせください。
金監督(以後:金):「夢」というののベースは「花はんめ」にあります(金監督初監督作品。2004年公開)。自分たちの過去を描くんじゃなくて、今とか未来とか、夢みたいなものが描ければなと。だいたい、いわゆる在日の人を描く時は歴史から始まるじゃないですか。そっちから遡って、その人に辿り着くんじゃなくて、その人が、今なり、その先をなんとなく提示して、そこから、観る側が、どこまでその歴史を遡るかっていうふうなものにしたいなっていうベースがあります。かつて(「花はんめ」の撮影時)1999年に聞いたハルモニたちの夢と、今のハルモニたちの夢を起点に。みんな他愛もないことを夢として言ったり、夢がないというハルモニも居たり。それは翻ってみると、たくさんのことを語るよりも今が一番いいって言ってたんですよね。それだけ自分たちの生きてきた過去がしんどかったということが、逆に分かるかなという気持ちがあります。
普段は、こちらからインタビューする撮り方は全くしないのですが、今回の「夢」に関しては設えて、夢しか訊かないということで、みんなに訊いたんです。関係ができてくると、こちらから訊かなくても話してくれるように。最高齢のハルモニは97歳。記憶を整理しながら話してくれました。
僕が表現する時に大事だと思っているのが順番。「在日」ということから発するのではなくて「この人」というところからスタートしないと。袴田事件・冤罪というところからではなくて、袴田 巌さん・ひで子さんというところからスタートするかしないかって、すごく大きな違いだと思うんですよ。たまたま歴史の中の人っていうふうに。それは、あまり違わないように思うかもしれないけれど、語っていく、表現していく上では、すごく重要なことだと思うんです。そもそも「在日」「戦争」「人権」という大上段が、よく分からないじゃないですか。自分でも、逆から語り始めると、あれ?と思う。何かを語る時っていうのは、大きいところから始まっちゃうと、その中の「この人」になっちゃうことで見えてこないものがあるんです。
--- お一人お一人の経験は異なるにせよ、金監督のお母様のことと記憶が重なる部分、お母
様から伝え聞いていたこととハルモニたちの共通体験が、どこかにあるのでしょうか、あるいは
全く違うものを感じながら撮影されていたのでしょうか。
金:母親からは、ほとんど聞けなかったんです(お母様は1999年に他界。享年77)。僕が興味を持ったのも映像の仕事を始めてからだったし、自分の親に聞くっていうのは意外と難しくて、向こうも半分照れ臭いのと、もう半分は自分たちが褒められた生き方をしてきたという感覚がないから。たぶん生きていくのに必死で、なりふり構わず、おそらく綺麗ごとだけじゃなく、人を裏切ったり裏切られたりしながら生きてきたことを、どういうふうに語っていいのか分からなかったんじゃないでしょうか。
僕は6人きょうだいの末っ子なんですけど、母親は済州島で最初の結婚をして子どもが1人居て、父親も光州で結婚して子どもが1人居て。たぶんハルモニたちと同じように、それぞれ出稼ぎという形で日本に来て出会ったんだと思うんですよね。そのあと生まれたのが4人なんです。 背景はきっと複雑なんだろうなと。
母親が他界した頃、川崎のハルモニたちとの出会いがあって、話を聞くというよりも、とにかく、なんでこのおばあちゃんたち、こんなにパワーがあるんだろうなっていう思いがあって。あとあと分かってきたのが、ハルモニたちもかつては、自分たちの人生だとか苦労は語るに足らないと思っていたようで。それが地域の識字学級という30年以上にわたる地道な取り組みがあって、ハルモニたちはようやく、語ることで聞いてくれる人が居るし、それらが何かの役に立 っているっぽい、みたいな。
うちの母親は商売ばっかりで、歌ったり踊ったりっていうのも見たことなかったし、第一世代の、一世の人と同じように教育を受けていないので読み書きがほとんど出来なくて。働きづめで自分の時間を発散して過ごすようなことがなくて、違う楽しみはあったんだろうと思うけれども、そういうのがちょっとした引っかかりで。
川崎のハルモニたちは、自分の生きてきた道を少し肯定してもらう中で、段々、自分の時間、仲間たちと発散・解放していく時間と、僕らの出会いがあったという感じだと思うんですよね。
K-POPや韓流がブームになって、韓流ドラマでも結構、政治的なメッセージが入ったものが多いじゃないですか。これだけ裾野が拡がっているということは、その中でもっと歴史が知りたいなとか、そういう人も居るんだと思うんですよね。BTSファンが一気にそこに進む雰囲気ではなくても、何かそういう人たちの一部でも興味を持ったり来てもらえたりしたらいいなと思います。
--- 韓国映画やドラマを観ていても、韓国各地を旅していても、女性たちが「このキムチ、パンチャン(韓国語で、おかずの意)も食べて行って!美味しいでしょ!」と振舞ってくださる、あのパワーは、ハルモニたちにもともとあったのでしょうか。コミュニティーがあったから保つことができたのでしょうか。
金:あの世代のハルモニたちは男尊女卑で虐げられて、教育は受けさせてもらえない、ご飯も家族が食事する時ですら台所で食べるとか、女性問題というのは日本よりも影響を受けていると思うんですよね。
1つは韓国の文化として、ご飯食べて行きなさいっていうのが挨拶としてあるっていうのと、もう1つは自分たちが戦争・植民地支配の中で食べられなかったっていう食に対する意識、食べられるものは何でも食べたり、育てられるものは何でも育てたり、山菜もタンポポも取りに行ったり、逞しく生きていくっていうこと。そういう時代の中で男の人たちが早く亡くなっていって、偉そうにしていた男の人の権威・権力が弱っていって、ハルモニたちは今まで締め付けられていた分、解放されていくっていう、あのおばあちゃんたちのご飯食べてるところなんかは、そこが解放区みたい。
何でも、食べるシーン、多いですよね。とにかく食べろっていうのは、男性にすごく締め付けられてきた反動みたいなものがあるんじゃないかという気がします。しんどい中で、絶望、怒りを、生きる力や知恵、いい方に変換していくのはすごいな、見習いたいなと思いますよね。
(記事は3回掲載予定。続きは、2024年2月初旬に掲載予定です。)
2023年12月16日(土)~22日(金) 川崎市アートセンター 特別ロードショー
小田急線「新百合ヶ丘駅」北口より徒歩3分
☆連日14:35分より上映
☆毎回上映後には金 聖雄監督のトークあり
☆12月16日(土)はハルモニたちもトークに参加
※12月18日(月)休映
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